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福岡地方裁判所小倉支部 平成6年(ワ)1468号 判決

フランス国

パリ 七五〇〇八 アヴニュ モンテーニュ五四

原告

ルイ・ヴィトン・マルチエ

右代表者最高経営責任者

イブ・カーセル

右訴訟代理人弁護士

芹田幸子

松村信夫

小野昌延

北九州市若松区中畑町五番一四―二〇四号

被告

藤戸雅己

主文

一  被告は、別紙目録(一)及び(二)記載の各標章を付したかばん類及び袋物類を譲渡し、又は、譲渡のために展示してはならない。

二  被告は、第一項記載のかばん類及び袋物類を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金七九万七四七二円及びこれに対する平成七年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

六  この判決は、第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

一  原告は、主文第一、二項と同旨及び「被告は原告に対し金一八四万七四七二円及びこれに対する平成七年一月九日(本訴状送逹の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、別紙「請求の原因」記載のとおり請求原因を述べた。

二  被告は、「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、「請求の原因一ないし四の各事実は認める。同五の(二)及び(三)は争う。」と述べた。

三1(一) 請求の原因一ないし四の各事実は、いずれも、当事者間に争いがない。

(二) 右事実によれば、被告は、偽ルイ・ヴィトン商品の販売により原告の本件商標権を侵害し、原告の一般消費者をして原告の製造販売する商品と偽ルイ・ヴィトン商品との誤認混同を生ぜしめる結果につき、これを認識していたと推認できるが、仮に被告にこのような認識がなかったとしても、当然に認識すべきであるから、すくなくとも過失があったといわざるを得ない。

2(一) 請求原因五(一)の事実は、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

(二) 原告は、本件につき営業上の損害の外に信用毀損による無形損害に対する賠償を請求しているところ、弁論の全趣旨によれば、原告の製造販売する商品は、日本国内を含め各国で一流品、有名ブランドとしての信用を形成しており、本件標章(一)及び(二)は、原告の商品を示すものとして世界的に著名なものとなっていること、原告は、自社及び自社の製品に対する信用を保持するため、日本等における製造は認めず、フランス国内で製造した製品を系列の販売店でのみ販売するという体制をとっていること、被告が販売した偽ルイ・ヴィトン商品は、原告の製品と酷似したものであり、価格も安いことが認められる。そうすると、被告が原告の販売体制とは別に、原告の製品であるかのような誤認・混同を消費者に与える安価な偽ルイ・ヴィトン商品を販売すれば、高級な原告の製品の有する信用が毀損され、ひいては、これにより原告が無形の損害を被ることは明らかであって、右損害は、前項の営業上の損害の賠償のみでは償うことができないものというべきであり、本件において原告が被った信用毀損に基づく損害額は、本件における被告の販売個数、期間、売上額その他の諸般の事情を考慮すると、前項の営業損害額の外に三〇万円と認めるのが相当である。

3 本件事案の内容、審理の経過、損害額その他諸般の事情を考慮すれば、被告による本件商標権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用としては、五万円が相当と認める。

四  以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し、商標法三六条に基づき商標侵害行為の差止及び偽ルイ・ヴィトン商品の廃棄を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償として七九万七四七二円及びこれに対する本訴状送逹の日の翌日であることが記録上明らかな平成七年一月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小山邦和 裁判官 村田龍平 裁判官 増森珠美)

請求の原因

一、 原告は、かばん類、袋物等の製造、販売を業とするフランス法人である。

二、 被告は、北九州市若松区本町二丁目九番一七号「ユアショッブ」において、後述する登録商標と同一又は類似の標章を付した鞄、袋物(以下、偽ルイ・ヴィトン商品という)を販売していた者である。

三、

(一)、原告は、別紙目録(一)記載の標章(以下「本件標章(一)」という)については、従前、訴外ルイ・ヴィトンが商標権を有していたが、平成五年九月六日に訴外ルイ・ヴィトンより原告がその譲渡を受けた。

商標登録番号 第一四一九八八三号

出願年月日 昭和五一年二月四日

出願番号 昭五一―〇〇四九五四号

出願公告年月日 昭和五四年一〇月二五日

出願公告番号 昭五四―〇三七一七〇号

商品の区分 第二一類

指定商品 装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉及びその模造品、造花、化粧用具

登録年月日 昭和五五年六月二七日

(二)、別紙目録(二)記載の標章(以下「本件標章(二)」という)については、従前、訴外ルイ・ヴィトンが商標権を有していたが、平成五年九月六日に原告がその護渡を受けた。

商標登録番号 第一四四六七七三号

出願年月日 昭和五一年一一月九日

出願番号 昭五一―〇七五二四八号

出願公告年月日 昭和五五年五月一五日

出願公告番号 昭五五―〇一九七五一号

商品の区分 第二一類

指定商品 かばん類、その他本類に属する商品

登録年月日 昭和五五年一二月二五日

四、 被告の商標権侵害行為

被告は、少なくとも平成四年一〇月から平成五年九月迄の間に原告の商品であることを表示する本件標章(一)及び(二)表示を使用した原告の商品に類似する偽造かばん類(以下「偽ルイ・ヴィトンかばん類」という)を、少なくとも五二個前記店舗において第三者に販売し、本件商標権を侵害する行為をした。

五、原告の損害

(一)、被告の得た利益相当分の賠償請求

被告は、四項記載の販売により、少なくとも別表(一)(二)のとおり金四四七、四七二円を下らない利益をあげている。

うち、別表(一)の金三九四、三七二円の売上は、本件商標権(一)(二)の譲渡前の利益であるので、商標法三八条一項により、訴外ルイ・ヴィトンの損害と推定され、同(二)の金五三、一〇〇円の売上は、同項により原告の損害として推定される。

なお、別表(一)記載の損害については、平成五年九月六日に訴外ルイ・ヴィトンより原告に譲渡され、ルイ・ヴィトンより被告に対して、平成六年一一月一日付け内容証明をもって右譲渡の通知が行われ、右内容証明による通知は、平成六年一一月八日に被告に到達した。

(二)、信用毀損による無形損害及び慰謝料

原告の前身は、一八五四年に、世界で最初の旅行鞄店としてパリに設立された。以来、極めて堅牢なファッション性に富む高級なかばん類、袋物類を販売し、人口に膾炙している。

原告は、ライセンス契約による日本等における製造はしておらずフランスにおいて製造した原告製品を、原告の日本における子会社が輸入し、これを子会社の直営店六店と特約店二八店において販売して、品質の保持管理に努め、本件標章(一)及び(二)の信用維持に務めている。

本件標章(一)及び(二)の標章は、原告の永年にわたる企業努力により世界的に著名な商標となり、日本国内において取引者需要者間で広く認識され、強力な顧客吸引力を取得した著名標章である。

又、原告は、品位を大切にして商品イメージのための広告はしても、通常の販売促進広告はせず、又安売り、バーゲンセールをしないので原告製品は大変需要者間に人気がある。

このような原告にとり、被告の本件侵害行為の如く、原告の製品の酷似的模倣の商品を安売りされると、原告の信用が毀損され、これにより無形の損害を蒙ることは明らかである。

被告の本件偽ルイ・ヴィトンかばん類は、いわゆる酷似的模倣の商品であって、素材(ビニール皮)、色、デザイン等原告の商品にそっくり似せてつくられており、被告は、このような酷似的模倣の商品を一般消費者に対して安売りをしていたのである。

原告が築いてきた一流ブランドとしての名声、原告商品に対する信頼が被告の右販売により低下させられた原告の損害は甚大であり、これは単に営業上の利益の損失の填補のみでは足りない。

なお、被告は、運び屋を使用したり自ら韓国に出向き偽ルイ・ヴィトン商品を密輸入し、これを右店舖にて販売しており、その犯行には計画性があり、悪質である。

以上の次第であるので、金一〇〇万円を下らない金員が無形損害として支払われるべきである。

(三)、更に、原告は、本件紛争解決のため代理人弁護士に対して訴訟委任を行いその着手金、報酬として金四〇〇、〇〇〇円(大阪弁護士会報酬規定による)の支払いを約した。

以上合計金一、八四七、四七二円が原告の損害である。

六、結論

原告は被告に対して、商標法第三六条にもとづき、その侵害行為の差止及び侵害商品の廃棄を民法第七〇九条、商標法第三八条第一項にもとづき損害金一、八四七、四七二円と、これに対する本訴状送達の日の翌日から支払済に至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、原告はその支払いを求め、本訴提起に及んだ。

目録(一)

〈省略〉

目録(二)

〈省略〉

別表(一)

〈省略〉

別表(二)

〈省略〉

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